名古屋高等裁判所金沢支部 昭和55年(ネ)80号 判決 1981年3月18日
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「1原判決中、控訴人に関する部分を取消す。2富山家庭裁判所が同裁判所昭和五四年(家)第四五八号遺言書検認事件につき昭和五四年八月七日検認した遺言者亡清水市郎右エ門の自筆証書による遺言は無効であることを確認する。3訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人島崎良夫並びに被控訴人島倉幸子及び同清水恒一両名代理人は、いずれも主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり附加するほか、原判決事実摘示中控訴人に関する部分と同一であるからこれを引用する。(但し、原判決書四枚目裏五行目中「五四四条」とあるのを「五五四条」と訂正する。)
(控訴人の主張)
本件死因贈与契約は、受贈者である控訴人が、贈与者である遺言者亡清水市郎右エ門(以下「遺言者」という。)に対し、控訴人が勤務先の三菱倉庫株式会社を退職するまでの間、毎月二五日限り一か月金三〇〇〇円の金員と年二回の定期賞与金の半額の金員を送金する旨の負担附の死因贈与契約であり、その負担となる給付は完全に履行済である。
したがつて、単純に、民法五五四条によつて同法一〇二二条、一〇二三条が準用されて後の遺言により一方的に取消ができるものではなく、同法五五三条により、遺言者又はその相続人が有効な契約解除等をなさない限り失効するものではないのである。同法五五三条の法意は、贈与に負担が附いている場合には、受贈者に負担という給付を伴うので、単純な贈与のような片務契約と異るために、贈与者において、受贈者の利益を踏みにじつて一方的な取消ができないようにその公平を図つたものである。しかも、本件のような負担附死因贈与契約の場合には、この法意が適用されるべき必要性が一層強いはずである。何故ならば、受贈者の負担としての給付は贈与者の生前中に行われるものでありながら、贈与自体は贈与者の死亡によつて効力を生ずるものであるからである。そして、民法五五四条が「死因贈与ハ遺贈ニ関スル規定ニ従フ」と定めているのは、準用するとの意味であつて、同法一〇二二条、一〇二三条が準用される場合は、遺言という単独行為によつて死因贈与契約の効力を消滅させても、贈与者と受贈者との法律関係に特別に公平を失しない場合や受贈者の利益を害しない場合に限られるべきである。
(被控訴人島崎良夫の答弁)
当審における控訴人の主張は争う。
(被控訴人島倉幸子、同清水恒一の答弁)
当審における控訴人の主張は争う。
理由
当裁判所も、原審と同様、控訴人の本訴請求は理由がないからこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり附加するほか、原判決理由説示中、控訴人に関する部分と同一であるからこれを引用する。
控訴人は負担附死因贈与契約は民法五五三条により契約解除がなされない限り失効するものでないと主張する。
死因贈与については、民法五五四条により遺贈の規定が準用され、従つて遺言の取消に関する民法一〇二二条(その方式に関する部分を除く)、一〇二三条が準用されると解すべきである。(最高裁判所第一小法廷昭和四七年五月二五日判決民集二六巻四号八〇五頁参照)負担附死因贈与についても同様であつて、民法五五三条は適用されないと解されるから、受贈者がその負担の全部又は一部の履行を済せたときと雖も、贈与者より右死因贈与と抵触する遺贈がなされた場合には、さきになされた死因贈与は取り消されたとみなされると解するのが相当である。けだし、死因贈与は遺贈と同じく処分者の最終意思を尊重すべきであるからである。控訴人の主張は独自の見解であつて採用することができない。
以上の次第で、右と結論を同じくする原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。